Yellow Green Mechanical

八神きみどりが文章を書くブログです。主に読んだ本や、観たアニメや映画の感想を備忘録として綴ります。

『君の名は。』の2回目を観てきました。

読んだ本や、観た映像作品の感想を残す場所が欲しいと思い、ブログを開設しました。

八神きみどりです。

ブログというツールは随分昔から都度開設しては飽き、都度開設しては飽きと、全然長続きしない思い出しか無いですが、「更新しよう!」という情熱を抱くこと無く、書きたいと思った時に書くことで適切な距離感を見出していきたいと思っています。と、ここまで書いて、その考え方もまた、適切な距離感を見失う要因なのではないかと思いました。難しい問題です。ともあれ、書きたいことがある時に書きたいと思います。「そりゃそうだ」と思われるかもしれないですが、僕もそう思います。

 

初めての記事が2回目を観に行った映画の感想というのも我ながらどうかと思います。

ここ最近は本を読んだり映画を観たりアニメを観たりと、意識的にインプットを増やしているので感想を書く作品には事欠かないはずなのですが、まずは直前に観た、自分の中で一番鮮度の良い作品について書くのが良いのでは無いかと思います。別の作品については機会と情熱があれば書くことにします。

 

 

――――以下、『君の名は。』のネタバレと個人的感想を大いに含みます。――――

 

 

さて、『君の名は。』。この映画を初めて観たのは1ヶ月前くらい(公開から1ヶ月経ったくらいの頃合い)なのですが、その時の僕には、出来不出来とは関係無いところで、この映画がもの凄く冗長な映画に感じられました。

と言うのも、開始20分くらいから尿意を我慢していたのです。

その日は公開2日目の『聲の形』と、『君の名は。』をハシゴする予定で映画館にやって来ていて、先に『聲の形』を観てから、ある程度時間を空けて『君の名は。』に挑むスケジュールを立てていました。間に軽食屋でコーヒーを飲んでパフェを食べたのが良くなかったことは言うまでも無いことです。僕は自他共に認めるカフェイン中毒者なのですが、カフェインを摂ると異常にお手洗いが近くなり(物理的な距離の話では無いです)、「まぁ冷コー1杯くらいなら……」という安易な考えがその後の僕を大いに苦しめることになるのですが……、後述します。

僕は新海監督の創る映画が好きです。

一番好きな作品……と言うと個人的には難しい話になりますが、『雲のむこう、約束の場所』が、作品の雰囲気としては一番好きです。『秒速5センチメートル』も好きです。特に第2話の『コスモナウト』が気に入っています。『言の葉の庭』は3回観て3回泣きました。この感覚については周囲の反応を窺ってみると、あまり一般的な感覚では無いようなので、個人的にもの凄く突き刺さるものがあった、という感じがします。『ほしのこえ』と『星を追う子ども』については、一応は観ましたが、語る言葉を持たないので割愛します。

と、まぁそれなりに過去作を嗜んだ状態で『君の名は。』に挑みました。

多くの方が仰っている通り、良い意味で「らしくない」映画だったと思います。

新海誠作品の共通点は、「此の場所」に違和感や焦燥感を抱く少年が、「彼の場所」に去ってしまう少女と出会った後、離れゆく物理的/精神的距離を独特の、湿度(雨や雪、梅雨の季節感など)を伴いながらも透明感のある空気感で描かれた作品群であると個人的には考えています。あとはモノローグですね。ある種文学的で内向的な、ポエミックなモノローグは新海誠作品に欠かせない要素だと僕は考えます。思春期の少年少女が普遍的に抱くであろう、出所のわからない「『此の場所』への違和感や焦燥感」。どこか違う場所を渇望しながらも湧き上がる衝動を御せずに、その思いがやや抽象的ながら視聴者が感覚的に理解出来る範囲で示されるあの無常感というか、やるせなさみたいなものが好きです。成人した彼らのモノローグには多大な諦観や後悔が滲んでいます。恐らくこれも、誰もが抱くであろう「自分は望んで此処に来たはずでは無い」という思いが、理解出来、共感出来る範囲で示されます。わかります。僕は望んで此処に来たはずでは無い……。

僕の後悔は置いておくとして、監督の意図とは無縁に、『秒速5センチメートル』ではそれが強い攻撃力を伴って示されていたと僕は感じました。『言の葉の庭』は、その先を再生した物語だと感じました。であるなら、『君の名は。』はどちらに振るのか、という興味がまず、僕の中にはありました。

残念ながら、『君の名は。』については、真っ新な状態で作品に挑むことが出来ませんでした。致命的なネタバレはゆるゆる避けつつも、ある程度前評判を知った状態で作品に挑みました。

新海監督が、エンタメとして優れた作品を創ったらしいぞ、と。

実際初めて観たときに、例の印象的なモノローグから始まり、ほとんど実写映像と言っても差し支えの無い中央総武線のホームに滑り込む電車視点で描いた映像を観たときは「いつもの新海監督だ」と思いましたが、オープニング映像が終わった後に用意された非常にコミカルな展開を見せ付けられた時は「マジか」と思いました。「やるじゃん」とも思いました。消費者なので上から目線でも問題がありません。いえ、本当に驚いたのです。前評判を聞いていても尚。

と、そこから『前前前夜』が流れるダイジェストまでは普通に観ていました。

ですが、気付くのです。

あれ、直前にお手洗いに行ったはずなのに、お手洗いに行きたいぞ……? と。

そこからはもう戦いです。自分との戦いなのです。映画を楽しみながらも、この尿意とどこで折り合いをつけるか、その妥協点を探るための負け戦です。

結論から言ってしまえば、僕はそれから80分、耐え切りました。耐え切ったのです。タイトルバックが表示され、エンドロールが流れ始めて『なんでもないや』が流れているのも気にせず余韻に浸った同じ列の観客たちの余韻をぶち壊すことも躊躇わずに「すみません……すみません……」と譫言のように繰り返しながら劇場を飛び出しました。行く先は決まっています。お手洗いです。そこに辿り着く前に本当に負けてしまわないことだけを考えながら、僕は競歩みたいな速さでお手洗いを目指しました。当然ながら社会的な死を迎えることなく、僕は戦いには負けませんでした。

そんな精神状態の人間が、まともに映画を楽しめるはずがありません。

もうとにかく、後半の展開が焦らしすぎだと思いました。そりゃそう思うはずです。なぜなら僕はいち早くお手洗いに行かなければならないのです。途中で抜け出して戻ってくればいいのでは? と、お思いになるかもしれません。ですが、その間に決定的なシーンが流れない保証などどこにもありません。見慣れた映画ならいざ知らず、初めて観る映画では貧乏性……というと少し違うかもですが、それが勝ちます。僕は社会的な死を迎えたくはないですが、それと同じくらい途中が抜け落ちた映像体験を得たくは無いのです。全てのシーンが決定的なシーンです。これはわがままかもしれません。たった一杯のアイスコーヒーとチョコパフェに翻弄されることを知っていれば、僕はもっと堅実なメニューを注文していたかもしれません。何を言っても後の祭りです。

ともあれ、そういった経緯で2回目に挑みました。

感じたのは、思ったよりも尺が短いということでした。

シナリオ的に過不足はありません。あれ以上何を足しても蛇足にしかならず、何を減らすことも出来ない完璧に近いシナリオだったと思います。

あぁ、人間ここまで体調が違うと、こうも感じることが違うのだなぁと驚きました。当然です。皆さんも体調を万全にして映画に挑みましょう。

散々言い古されたことですが、間違いなく『君の名は。』は新海監督の新境地だったと思います。目に入ったインタビュー記事や又聞きの情報などを伺うとやはり制作は色々と大変なことが多かったとのことですが(特に、チームで作品を作り出すのに大変ではないことの方が少ないはずですが)、今作の成功に喜ぶ自分と、今までの新海節とでも言いましょうか、監督の持ち味をめためたにぶち込んだ作品が観れなくなるかもしれない一抹の寂しさを感じないでもないですが、ともかく、『君の名は。』にはとても満足出来ました。

 

映画のタイトルを記事タイトルにまで据えてこう言うのも変な話ですが、僕は『君の名は。』について語る言葉を多くは持ちません。

何を言っても蛇足になるからです。『リアリティ』について言及した発言は幾つか目にしました。見当外れ甚だしいと思います。『この作品』を構成する『この作品の中でのリアル』に『スクリーンのこちら側に居る我々の現実』を持ち込んで鋭く切り込んだ気になった戯言には批評性も、付随する価値も無いと僕は考えます。

同時に、『君の名は。』に関しては、作品要素の何か一つをピックアップして取り上げるべき作品では無いような気がします。大きな枠で言えば、映像は良いです。劇伴も良いです。キャラも演者も良いです。テーマも良いです。オチに関しては言うまでも無いです。

ですが、それぞれ一つ一つは決して独立していません。もう少しミクロな点ですが、話題になった口噛み酒に関しても、重要なギミックを持ったアイテムの一つです。

と言うわけで、『君の名は。』の2回目を観た僕の感想は「掛け値無く良かった」以外にありません。(言うまでも無いと前述したオチに要望が無いわけでも無いのですが、これは本当に個人的で作品とも無縁なものなので、胸に秘めておきます)

 

ここまで衝動的に書き殴って気付きました。

君の名は。』、全編を通して晴れていましたね。

それ一つを取っても新境地だったなぁと思いました。

 

あと、冒頭付近に出てきたユキちゃん先生みたいな演出は本当にサイコーだと思うので、ユキちゃん先生の今後の活躍も祈りたいと思います。

 

以上です。